8月30日「思春期ごっこ」未来穂香・青山美郷主演@新宿武蔵野館



日劇団ハーベストの公演を見に行ったのと、「反重力ガール」公演DVDを見て、青山美郷さんが気になってました。

そんな俺を誘うかのようなタイミングで、この映画が上映された。

そこにはコミカルな「反重力ガール」での青山美郷さんと全く違った、青山美郷さんが映ってました。



1.描く、描かれる



辻沢三佳(青山美郷)と蓮見鷹音(未来穂香)は同じ女子中学校へ通う親友。

放課後、鷹音が三佳をモデルに、キャンバスに向かうシーン。

美術室シーンだけですべてと言ってもいい映画ですね。少女たちの関係性の変化というか昇華。


鷹音のキャンバスに向かう表情は真剣そのもので、まさに美少女。やや性格はキツそう。

一方の三佳は、劇中小説「思春期ごっこ」を読みながら、のほほんとモデルになってる。

青山さんは、小柄で本当に中学生に見えますね。いや、19歳の女性にはとても見えない。

三佳と追いかけっこするときのあどけない表情は、柔和で無垢な女子中学生そのもので、まずそこから驚きました。


モデルをやってほしいと言ったのは、普通に考えて鷹音だし、終始鷹音がモデルの三佳を見ているという構図。

パンフのあらすじには「淡い恋心のようなもの」とかあるけど、見たところ鷹音は、もう止まらない恋に浸食されつつある。

三佳はじっとしてさえいれば、好きな本読めるからいいかな程度の気持ちでモデルやってそう。


このシーンは、親友との穏やかな空気を吸ってる三佳に対し、親友に恋い焦がれてしまっている鷹音、という歪みが透けてきて心がチクチクした。

「思春期ごっこ」を読む三佳の目が優しいときと、刺激に飲まれて怯えるような目のときの、青山さんの演じ分けが上手かった。

基本的には、柔らかな視線をページに落としていて、見ていると安らぐ。天性の三佳の周囲に与える安心感がそこかしこ。


鷹音は三佳を描く一筆一筆に愛情を込めている。そんなことに気づかぬ三佳は、鷹音の異性的視線に徹底的に搾取される。

だた、モデルの三佳のほうも、今まさに親友に全身を無遠慮に眺められ、描かれているのだという皮膚感覚は持ち合わせているだろう。


鷹音にモデルとして必要とされてる、という充足感に包まれて、ホカホカしている三佳の顔は無邪気な少女だ。

三佳は受動的な存在としてまだそこにあるが、物語の展開につれ実は能動的な少女だったと気づく。


鷹音は描く、三佳は描かれる。

そんな美術室のシーン自体が、午後の淡い日差しと少女の甘い視線が交錯する静物画だった。



2.書ける、書けない



三佳は図書館で偶然、愛読書「思春期ごっこ」の著者である花岡奈美江(川村ゆきえ)と出会ってしまう。

奈美江は図書館司書として働いていた。


奈美江のどこか不安げな目つきは、最初から物語に暗い予感を漂わせるけど、こういうメランコリーな美人の表情好きです。

憧れの小説家に出会えた喜びを全身で表現する三佳。小説「思春期ごっこ」について矢継ぎ早に質問する三佳。


目を大きく見開いてまっすぐ小説家・奈美江に話しかける三佳と、後ろめたそうに目線を合わせない奈美江の横顔。

それを同時に映し出すカメラアングルも良かった。


もう今は創作のインスピレーションが浮かばず、ただ日常にのみ生きる奈美江だった。

しかし、突然「読み聞かせ会への新作の発表」依頼が舞い込む。


夜、自宅マンションでパソコンに向かう奈美江だが、一向に書き出せないでいる。

メガネをかけ、半裸みたいな恰好でセクシーにタバコを飲んでる。

実は、エンドロールで元グラドルの川村ゆきえさんと知った。川村さん陰のある演技上手くて驚きました。


そして「読み聞かせ会」当日、鷹音との高校見学の約束を直前で断り、全速力で奈美江のいる図書館へ向かう三佳。

吹き抜けの広場で子供たちの前で「夢をたべる」という新作童話を朗読する奈美江。

そこに三佳が現れるが、顔面蒼白無表情で全身から力が抜けたように、その両手はだらりと下ろしたまま立ってる。


「夢をたべる」は三佳がこどもむけに書き下ろした小説だったのだ。



三佳「あれ私の小説ですよね」

奈美江「あのね、これはね…。三佳ちゃんの文章をわかり易く手直ししてね…」

三佳「なんで謝らないんですか」

奈美江「…」

三佳「ゼロから話を創るのがどれだけ大変なことか、知ってますよね」



感情を失ったかのような顔から、凄味のある嫌味な言葉をなげかける青山さんの声。背筋が凍る思い。

ナイフのような言葉は、奈美江の心臓を抉りとり、微かに燃え残っていた作家としてのプライドを完全に奪い去った。

女子中学生の、世間に染まってない真っ直ぐな感情ってナイフより尖っている。


無垢さの前では、大人の事情など全く価値のないガラクタになってしまうのだ。

まあまあここは穏便に、など悠長なことは言えない。中学生には今しかないのだ。

積み重ねられた過去がない分、汚れや迷いも蓄積がない透明さ、そして正義感にいつも大人は負ける。



三佳「読みやすい文章だって言ったじゃないですか。それに奈美江さん最近本読んでますか。」

奈美江「…」

三佳「どれもこれもみんな古い本ばっかり…」

三佳「こんな人尊敬していたなんて…」



このシーンは三佳が画面の手前、後ろに奈美江の構図。

最後の最後まで、三佳は奈美江の目も見ず、顔すら向けることなく去っていく。


ここまで来ると、三佳より奈美江の方に共感してしまう。やさぐれた大人としては。

昔を思い出し「中学生の女子って恐ろしかったよなぁ」って回想してました。


このシーンは盛り上がるのは、創作することの苦しみ、それが盗まれたときの絶望・怒りなど、監督の芸術への思い入れが入ってるからだろうな。


俺は小学生のときと中学生のときにちょっと小説書いてみよう、と思って挫折したことあります。

子供ながらに結構ショックを受けたことを覚えてます。

いかにゼロから何かを創るのが難しいか、わかりました。


そういえば、三佳役を演じるにあたって青山美郷さんは、短い小説を書いたらしいですよ。

凄い情熱!尊敬します。


小説を盗まれたことに激怒し、大人に裏切られる、という経験を得て成長する三佳の役づくりって大変だろう。

三佳のこの場面の冷酷な態度。もう少女から大人へ無理やり脱皮させられてボロ布一枚にされてしまったような感じで震えました。

悲しい…悔しい…という声なき声を背中で語っているようでした。


書けない、奈美江に、書ける三佳。小説という夢のかけらを奪われた三佳の哀しい一日。



3.振動



鷹音「帰ってください。」

奈美江「え…」

鷹音「そこに三佳が座ってたんです。ずっと二人だけの時間だったんです。それをあなたが壊した…」

奈美江「…そんな…」

鷹音「かえれー!」



未来穂香さんの怒号に一瞬記憶が途切れた。

それまでの感情を極力抑えたような演技から一転、獣が外敵を威嚇する雄叫びか。

その剥き出しの感情が、スクリーンを突き抜けて、観客である自分をも標的にしてくる。

本能的恐怖が、閃光のように今、劇場内を駆け抜けて蒸発していった。


そのあと奈美江をグッと睨みつける表情は、あたかも怒りを何遍も上塗りして完成させた、呪うという顔だ。

感情を表にはっきり表さない鷹音。しかしこの美術室には、三佳を奪われた、という被害妄想が水蒸気となって充満していた。


鷹音役の未来穂香ちゃんは、この咆哮があったから好きになった。

可愛さを金繰りすてて放った一発のセリフに惚れました!


「かえれー!」という鷹音の怒号によって、ストーリに振動が生じ、物語はクライマックスへ。



4.闇に浮かぶ水槽と鯉、そして溶けながら沈んでいく鯉の餌は



水着で中学校のプールに浮かぶ鷹音。まるで夜の水槽に浮かぶ鯉。しかも死にかけの鯉。

もう失ったはずの三佳との恋。その恋が死体になってプールに漂うシーン。


そこへ松葉杖を突きながら三佳が現れる。呼び出されたのだ。

これからの展開は、瞬きもせず、二人の美少女の演技に酔いしれたい。

浮いていた鷹音は無言で立つ。三佳の水着だった。

鷹音が自分の水着を着ているのを見て、混乱する三佳。徐々に近づく鷹音。

三佳がその手をとりプールから引き上げようとした瞬間、猛然と鷹音によって水槽へ引きずり落とされる三佳。


もう三佳は鷹音の餌に過ぎなかった。感情など考慮されない、ただ捕食されるのを待つばかりの餌。

欲しくて欲しくてたまらなかった。もう鯉は餌を我慢しない。



鷹音「三佳。好きだよ」



焦燥感の漂う声。声はどこか妖しげな艶やかさと奇妙な滑らかさで発せられた。

制服のまま、しかも右足をけがしている三佳はすぐに鷹音に捕まってしまう。



三佳「やめてよ!気持ち悪い!」



鷹音をほとんど投げ飛ばしながら、自分の唇を乱暴に手で拭う三佳。

三佳の叫びは、限りなくカラカラに乾いた響きだった。耳を疑うほどの、とげとげしい声で三佳を引き剥がした。


鷹音の強引な接触が小説「思春期ごっこ」のシーンと重なり、瞬間的に心が破裂してしまったのかもしれない。

憧れた人から小説を奪われ、親友との信頼関係を失った、抜け殻のようになった三佳がプールサイドのシャワーをくぐる。

小さい三佳の後ろ姿が、色を失って消えていくように見えた。



5.号泣と慟哭のタイムカプセル



ずぶ濡れの三佳は、奈美江のマンションを突然訪れた。

こんな姿を両親が見たら心配するし、女子中学生が寄れる場所なんて限られてる。

三佳は映画では出てこなかったが、以前にも奈美江を訪れていたのだろう。切ないですね。


奈美江に「風邪ひいちゃうよ」と促され浴室でシャワーを浴びる三佳。

この映画では、随所に劇中小説「思春期ごっこ」の場面がサブリミナル的に挿入されている。

そしてモノクロの「思春期ごっこ」シャワーシーンとの交錯が始まる。

このシーンにおいて、小説と映画における現実が最大級の混濁を起こす。


未だに三佳の「やめてよ!気持ち悪い!」というセリフのショックを引きずっている俺。

女児のような「うえーん」、という弱弱しい泣き声が聞こえてくる。

泣き声が少女の号泣へ変わり、一気に大人の慟哭へと登り詰めていった。


未来穂香さんの声の出し方の上手さに感動した。今だから言えることですが。

映画館では、その後悔と悲しみと寂しさがヘドロとなってうねるような慟哭に、頬が泡立つような悲しみを感じた。

鷹音の慟哭は、奈美江の思念であり、14年前「思春期ごっこ」で描かれた小説というタイムカプセルのふたを開けたのだった。


思春期ごっこは、現在の鷹音の語りがあり、中学時代の鷹音と三佳の物語と、小説「思春期ごっこ」の三層構造になっている。

3つの時代(時空)を行き来して編まれているので、ちょっとしたタイムトラベル気分になりました。



6.湧水



美術室。キャンバスに向かう鷹音から三佳を見たカメラアングル。

そこにはもう鷹音はいない。モデルを手伝っていたときの位置に、三佳がぽつんと座る。

しんと静まりかえった教室で、鷹音との時間を懐かしむように、三佳はただそこに座ってる。


なぜか10年経ったような気さえする。たった数か月前のことなのに。

三佳は、そんなこと思っていたのだろうか。


いったん座ったら三佳は、まったく動かなかった。表情だけで胸にくるシーン。

引きのアングルがパッと三佳のアップに変わる。何も言わない。


ぼうっと想いにふけっていた三佳は、一瞬笑顔になるが、目に涙が沁みだしてきてこぼれた。

青山美郷さんという女優がもつ純粋さが溢れて輝いてた。


一緒に観た友人と映画後に飲んで感想戦したんですよ。

そしたら「青山さん」の話が中心になった。この映画の感想は一言でいうと青山美郷さんなんだ。


トークショーで見せた天然っぽさ(演技かも)、映画で見せた純粋さ(演技)など19歳にしてたくさんの心模様を映し出す、

青山美郷さんの女優としての底知れない凄さ、恐ろしさを存分に堪能できる映画でした!



ここまで長文を読んでいただき、ありがとうございました。